2.
エルテイル喫茶では2月のバレンタインデーイベントに向けて大忙しなのだ。クロモド店長はそのアイデア捻出のため徹夜の連続なので、大変機嫌が悪い。
「副店長は…?あぁ、5分以内に出社しなければクビにする。」
懐中時計をちらりと見ると同時に、カランカラン・・・ドアベルが鳴った。
「おはようございます~寝坊しましたっ!」
赤髪の長身、体力にしか自信がなさそうな男だが、その顔はまだ寝ぼけ眼だ。クロモドは明らかに耳に入るような舌打ちをした。
「シュバルマン…今度遅刻したらあとは無いと思え!と言いたいところだが…今は猫の手も借りたいくらいに忙しい。クビがつながったな。」
「助かります!えっと…今日は新人さんが来るんでしたっけ。」
制服をつっかけながら、シュバルマンは大急ぎでロッカー室に向かっていった。
「テンチョーなんか、優しくない?今日は機嫌いいのかなぁ。なんかいいことあった?」
大きなロボの上に乗った少女はピンコという。何かを感じ取ったのかルコに尋ねた。
「ん~いつも通りだと思うけど。小言は少なかったねw」
こうして、エルテイル喫茶の朝礼がつつがなく始まった。
「…この大魔法師の力を持ってすればたやすいことなのだが、ライバル店に対抗していくためには、独自の戦略術とセンスが要求される。そこでだ、君たちの意見も耳に入れておこうとおもうのだが。」
「そうですね…私が偵察したとこでは、やはりライバルのデリオ店もバレンタインデーイベントを開催するようです。かなりの綺麗どころを増員した模様ですよ。」
黒髪の優男は不敵な微笑で答えた、彼の名前はアエルロト。マネージャー兼ウエーターである。クロモドは眼を細めると、羽ペンで何かを書きつけてから顔をあげた。
「ところで、今日は新しく入った、新人社員の紹介をするとしよう。」
店長が手を2回叩くと、アルポンスが小さな男の子を連れてきた。年は12、3歳くらいだろうか…青い髪に青い瞳、実に可愛らしい少年だ。
「ソーマです。よろしくご指導のほどよろしくお願いしますっ!」
少し照れているのか頬が赤い。意外としっかりした受け答え、礼儀正しくお辞儀する姿が初々しさを醸していた。
「あれ、私と同じくらいの年なのかなっ!」
ピンコは少し嬉しそうに笑った。
「可愛い少年ウエーターで綺麗どころに対抗ですか…店長、嗜好がかわったんですね。」
アエルロトは意味ありげな微笑。
「…嗜好?それも営業戦略として考慮しておくべきか。まぁいい、皆優しく接するように。以上。」
「そこは怒るところだと思うのですが…店長は本当につれないひとですね。」
クロモドの反応が薄くてアエルロトは苦笑いを浮かべる。
「言ってる店長が一番優しくない気がするんだが…。」
シュバルマンが小さくつぶやいた瞬間、クロモドは彼に鋭い視線を向ける。あとで地獄耳のクロモド店長に呼び出されロッカー室でこっ酷く小言を言われたことは言うまでもない。
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