5.
午後はさらに大変だった、午後にはうっかりもののナギちゃんが皿を何枚か壊し、一般業務プラス厨房の掃除と確実に店員たちの体力を奪っていった。ようやく閉店時間の夜6時を迎えたころには全員が店内の床に倒れこんでいた。
「休憩10分後にイベント会議を開く、バイト以外は残るように、以上。」
クロモド店長はドスの効いた声で皆を起こすと、箒を床に打ちつけて言い放つ。
「こ、これから?!」
シュバルマンは思わず声をあげてしまう。
「喫茶店のお仕事って…大変なんですね。」
ソーマは床に座り込むと、息も荒くつぶやいた。
「いや…普通の喫茶店はそうでもないと思うぞっ!」
何時も元気でにっこり笑顔のシュバルマンも、額から汗が見える。そして、何となく猫背だ。
「新入りさんは、帰らないのかい?」
エルピントスは背の高い美人だ。短期でフロアー長の役職に就いた、有能且つ人望の厚いひとである。
「いえ、早く仕事に慣れたいので、参加するつもりだったのですが…お邪魔ですか?」
ソーマは少し遠慮したように視線を落とすと、エルピントスは優しい微笑を浮かべる。
「そんなことはない、心強いよ。」
「…誰かさんに爪垢煎じて飲ませたいですね。」
アエルロトが何処からともなく、意味ありげに口をはさむと一斉にシュバルマンに視線が集まった。
「俺はちゃんと参加するつもりだぞって…みんなっ何でなんだ!!」
泣きそうな顔でシュバルマンは皆に訴える。
「シュバルマンこの前の会議も、寝てたわ…。」
イリシアが微笑を浮かべる。
「あぁ…イリシアさんまでっ!」
会議中のシュバルマンの居眠りはいつものことで、いびきをかくから、さらに達が悪い。もちろん、店長の箒で一括されることは言うまでもない。
落ち込むシュバルマンを、放っておけない気分になるアルポンスが肩を叩いて慰めていた。何だか、置かれている状況が似ている一人と1匹である。
「いつの間に、アエルロトさん戻っていたんですね、おかえりなさいっ!」
知らないうちに皆の話題に自然と入っているから気づかなかったが、午前中から小麦粉を探しに奮闘していたはずである。いつの間に戻っていたのやら。
「そうだ、話は聞きました…私は午前中いなかったから状況だけ。それで、小麦粉はどうにかできそうなのですか?」
「それは…これから始まる会議でお話し出来ると思いますよ。」
エルピントスの問いに、柔らかな笑顔でアエルロトは返すと、ちょうど店長が戻ってきた。
「時間だ。さっさと、席に付け…会議を始める。」
淡々とクロモド店長は資料を配りだすと、ピンと張りつめた空気の中、地獄の会議が始まるのだった。

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