8.
「しっかりしてくれ、店長に倒れされたら困るっ!」
シュバルマンがクロモドを店の休憩室のベットに急いで運んでいく。店員たちも心配して集まってきた。ナギがクロモドの額に手を当てる。
「すごい熱ですっ…。やはり、私のケーキが口に合わず…(泣)」
あわてて自分がケーキ用に用意していた薬草をあさり始めた。
「店長、毎日徹夜だったみたい。私が朝一で来るまで暖炉もつけてないし。」
ルコは暗い表情になってしまった。自分がもっと店長に五月蠅く言っていたら、無理をしなかったかもしれないと彼女は思えてならなかった。
「心配だわ。」
イリシアが小さくつぶやいた。クロモドは息が荒く苦しそうに咳をしたが意識が戻らない。ソーマが氷水の入った洗面器とタオルを持ってくると、ナギが手際よくクロモドの額にぬれタオルを載せた。
「どうするのバルマン!副店長なんでしょ、どうにかしないとっ!」
皆が茫然とする中、ピンコがやかましく叫んだ。
「そ、そうだな…とりあえず、店長の看病はナギさんとルコにお願いします!他の人たちはとりあえず、作業に戻ってくれ。手が空いたら俺のところへ来てくれると助かる、以上だ。」
シュバルマンは背筋を伸ばすと、しっかりとした口調で言い放つ。
『了解!』
皆も気が引き締まったようだった。シュバルマンの指示に直ぐに対応して、担当場所に散って行った。
「…といったものの。どうすればいいんだ?」
シュバルマンは皆が散ったのを確認してから、頭を抱えてうずくまる。
「これ、店長がいつも持ってる本だけど…役に立つかなぁ?」
ルコがクロモドの本をシュバルマンに手渡す。
「何が書いてあるんだろう…気になっていたが、勝手に見たら殺されるかもしれないぞ。」
「仕方ないよバルマン。その時は私が看とってあげるから、大丈夫!」
皆居ないと思っていたのにピンコが意地悪な笑顔を浮かべていた。
「大丈夫じゃないっ…!そういう役は、なんでいつも俺なんだ(泣)とりあえず、ありがとうっ!」
本をさっそく開いてみると、繊細で整ったクロモドの字が並んでいる。毎日の経営状況などが書かれた業務日誌であった。ページをめくるたびに、店長がどんなに喫茶店のことを大切に想っているのかが一目で分かった。予想通り、今日のページにはイベント準備のスケジュールと計画表、一人ひとりの担当分けが書かれていた。細かいところまで書かれているので、考えることが苦手なシュバルマンでも皆に的確な指示ができそうだ。
クロモド店長は仕事に厳しく口うるさいが、自分のやるべきことは抜かりなくこなすし、自分にも厳しい。そこは尊敬出来るところだと思う。しかし、自分一人で何もかもを背負おうとする節があるような気がしてならなかった。今回もそうだ、毎日徹夜続きで体調が悪いのを隠してまで信念を貫こうとしていた。
思い返してみると自分も、副店長という職に就きながら、クロモド店長に甘えていたところがあったし、遅刻したり失敗したり、落胆させることしかできていなかったように思える。彼が相談してくれなかったとしても仕方がない。
クロモドを責めるのは筋違いだ、無理をさせてしまったのは自分が不甲斐ないせいなのだから。
「俺がやるしかないんだぞ。」
シュバルバルマンは自分に言い聞かせるつもりで拳に気合いを込める。悩んでいても始まらない、それで自分の名誉挽回できれば一石二鳥だ。今は自分がやるしかない、そう心に決めるのだった。
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