前回の続きです。バレンタイン編最終話。
本文:花京
13.
アエルロトに言われた場所に着くと、そこには黒い高級車と黒ずくめの人物が二人、一人はショートカットの少女ともう一人は剣士風の長い黒髪の男。シュバルマンは物陰に隠れて様子をうかがう。
「…油断してしまいましたね。てっきりアンジェリナが私にくれたものかと。」
アエルロトは楽しそうに笑う。
「それは、絶対にあり得ません。アリエル様。」
「絶対ですか…言い切られると複雑ですね。」
冷たい彼女の言葉に、ちょっとショックだったのかアエルロトは苦笑いを浮かべる。
「ディオネ様が精魂こめてお作りになったモノです。この御心を忘れ無きよう。」
黒ずくめの男がそう言い放つと、二人はシュバルマンの姿を確認したのか、足早に高級車に乗りこんで走り去った。一方シュバルマンのほうは全く彼らの会話が聞こえなかったので、状況が全く把握できなかった。
「あいつら…黒ずくめだったけど、もしかして敵か?!」
シュバルマンが駆け付けると、アエルロトは本当に困った顔で、手のひらに載っている可愛らしいピンク色の箱を見つめている。
「いえ…私に資金を提供してくれた御令嬢のボディーガードですよ。」
アエルロトは簡単に説明すると、再び箱を見つめる。
「さっきから、この箱ばかり見ているが、もしかしてバレンタインチョコだったりしてな。」
「その通りですよ、シュバルマンさん。」
笑顔で答えるアエルロトに、誰からもチョコを貰えそうにないシュバルマンは少しいらついたようだった。
「…で、俺に自慢しようとここに呼んだのか?」
「いえ、少々困ったことになりました。この箱なんですが…。」
アエルロトが手を振ろうが逆さにしようがピンクの箱が手から取れない。シュバルマンは驚きのあまり口を開けてしまう。
「強力な術法陣がかけられています。おそらく中に入っているチョコを媒体に封印術の要領で手のひらに術が発動する仕組みです、術を解くには…。」
「あ、あぁ…そうなのか、よく分からないが。」
難しいことを言われたのでシュバルマンの頭がついていかない。
「簡単に言うと、中のチョコを食べれば外れる…と思うのですが、それは…私には出来かねますね。」
アエルロトはこのチョコをどうしても食べたくないらしい。人生終わりのような暗い顔で考え込んでいる。
「そんなに嫌なら、食べてやってもいいんだぞ?」
アエルロトをそこまで悩ませるチョコの送り主にかなり興味が湧いたが、アエルロトの心が折れそうな表情を見ていられなくなったシュバルマンは箱のリボンをほどくと中のチョコを取りだして口に入れた。
「あっ・・・!!」
アエルロトが止める間もなく、シュバルマンの胃にチョコレートが収まった。
「なんて事をっ!だ、大丈夫ですか?」
「とても美味しいチョコだったぞ?くれた人にちゃんとお礼し…な…くっ!!」
急にシュバルマンが苦しそうに胸を押さえると言葉を止める。
アエルロトの手から空の箱が落ちた。
最悪の結果が彼の頭によぎる、動揺で鼓動が収まらない。
彼はシュバルマンの体を慌てて抱き起こすと息があるかを確認した。やはり、ディオネ様が作ったチョコレートは普通のモノである筈がないのだ。
「シュバルマンさん、しっかりしてください!!」
毒が盛られていたかと思ったが、シュバルマンはとても幸せそうにイビキをかいて眠っている。
「眠った隙に私を拉致する計画ですか…ディオネ様、相変わらずお茶目ですね。これは永眠魔法…クロモドさんに解いてもらわなくてはいけません。」
今日は雲が無く透き通るように青い空が広がっている。アエルロトが空を見上げると、大きな黄色い鳥が、大きく旋回して飛び去って行った。
今回のバレンタインデーイベントは成功に終わりそうだが、問題ばかり起こす店員たちに今日もクロモド店長は苦悩は続く。手始めに、店に帰ったアエルロトとシュバルマンに再び雷を落とす事になるだろう。
(おしまい)
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